□予選リーグ 第3試合、第4試合
 第3試合が始まるころには気温はぐっと上昇していた。広いエリア、多い水量とともに選手の体力を奪って行く。特に初日最終の第4試合で試合時間は6時間に達する。その間の移動距離も多く、体力と集中力が要求される中盤戦の戦いを振り返る。


Cブロック飯島の上限。釣り客が多いエリアだった。


各エリア開始時には時計合わせ、エリア確認、時間確認が行われる。


出だしの第1試合、第2試合を2位タイ、トップタイと好スタートを切った君野選手だったが、中盤の上流エリアでは調子が上がらず苦戦した。



東日本セミファイナル大会を1位で通過してきた野崎選手は、相模川をメインにGFGの大会などで腕を磨く実力者だけに、九頭竜川での活躍も期待されたが、その実力を見せる場面が無かった。


今大会で4名居た栃木県勢の一人、山中選手も瀬に対する強さを発揮するかと期待されたが今回は輝けなかった。



第1試合をアグレッシブに攻めた結果、おとりを2匹とも根掛かりで失うと言う厳しいスタートとなってしまった森川選手。毎朝仕事前に大内山川で重ねた努力は報われなかった。


ファイナル2回目となる市岡選手。周りに惑わされず静かに自分の釣りを展開していた。


Aブロック、Cブロックでは強さを発揮しトップも獲得したが、B、Dブロックで苦戦し上位に食い込めなかった後藤選手。


高知から参戦の門脇選手は仁淀川をホームにするベテランだ。大河で培った川見は今回も冴え、第3試合では高橋、小澤の二人を抑えてトップを獲得した。


帝王村田満名人率いるちろりん会に籍を置く石田選手も、その豊富な大会経験から活躍が期待されたが、バレに悩まされ波に乗れなかった。


自らがおとり店を営む興津川を中心に年間150日以上川に入る宮原選手。その実力は確かで、今年はG杯全国にもコマを進めた。


綺麗な背掛かりで野鮎が飛んでくる。

 注目はやはり同じ組になった小澤、高橋選手の直接対決だ。小澤選手が先のダイワマスターズでの雪辱を果たせるのか。舞台はこれ以上ない坂東島だ。坂東島でも一番きつい瀬の中段に小澤選手、その30mほど上流に高橋選手が立ち第3試合が始まった。当代1の実力者2人は自分の釣りに集中しているようにも見えるが、見る者に伝わる二人の間に流れるビリビリした空気は、お互いを強く意識しているからこそだろう。良型を掛けめずらしく下がってしまった高橋選手だったが、これもその影響かもしれない。一度下がると如何に瀬に強い釣り人でも遡ることは不可能な流れだ。小澤選手の背後を下流へ下がる高橋選手。頂上決戦で交錯する二人の姿は間合いを測る武士のようにも見えた。瀬を縦に探る小澤選手はバレにも悩まされ8匹でこの試合を終えた。一方の高橋選手は横に広く動き追いのある鮎を掛けて12匹とした。しかし検量所に時間を余して戻った高知の門脇選手が13匹とけん制しあう二人を出し抜いてトップを得た。門脇選手は仁淀川をホームとしている。水面に石が出ていない大きな流れから底の変化を探るのは得意だ。この試合では岸際の流れに沿った駆け上がりの壁をきれいに攻めて釣果を得ていた。

 Aブロックでは着実に上位を確保する楠本選手に、宮原選手が並んでトップを分けた。楠本選手はG杯でも予選では勝ち上がる戦い、決勝では勝利する戦いと戦術を駆使する。今回もトップを狙うのではなく、トップに喰らいついていく堅実な釣りが印象に残った。宮原選手は興津川でおとり店を営む名手として有名だ。泳がせ一辺倒だった釣りが、小澤選手の釣りを見たことで衝撃を受け、その影を追い続けてここまできた。手本とする小澤選手と同じ構えで、細かく移動しながら着実に掛けていた。
すぐに伝わってくる情報ではCブロックで島選手がまたもや20匹と言う高釣果でトップということだ。これで3試合連続トップだ。
 Dブロックは厳しく6匹で3人がトップを分けた。上位直接対決が無かった三嶋選手はここで着実にポイントを稼ぎたいところであったが、攻めきれなかった。ブロックの試合別総釣果でも28匹と厳しさを物語っている。


名手小澤剛の釣りを見て衝撃を受け、それまで泳がせ一辺倒だった釣りが一変し、確かな基礎技術にその理論が加わったことでさらに強くなった宮原選手。今大会の経験がさらなる技術向上につながることは間違いない。


ダイワマスターズでの直接対決以来の高橋、小澤選手の戦いは、これ以上ないと言える戦場、坂東島で行われた。


先に掛けたのは高橋選手、下流におとりを置き、引き上げだした時に掛かった良型に、めずらしく一瞬主導権を取られてしまう。


シモツケの中でも最も強い部類のブラックバージョンファイターをも大きく曲げる九頭竜川の鮎と流れを楽しむように見える高橋選手だった。


交錯する名手二人の間に張り詰める空気感は、見るものにもビリビリと伝わるほどだ。メーカーの看板を
しょって立つ二人だが、その看板以上に譲れないものが二人の間には存在しているかのようだ。この戦いが
二人をまた異次元の強さへと導く。


高橋選手が狙う流れ。九頭竜川の聖域に踏み込む選手は少ない。




おとりが移動する距離は参加選手中一番だろう。体幹の強さとバランスの良さでどのようなポイントでも竿がぶれない。見ている限りでは根掛かりは一度も見なかった。


坂東島の中央に立ち縦横無尽に釣る高橋選手を見る小澤選手の背中からは、切歯痛憤の様子がうかがえる


第4試合で小澤選手が会心の釣りを展開したポイントは、市荒川放水口の右岸側の流れだった。二つの流れを越えてこなければたどり着けない。


誰にも邪魔されず自分の釣りに集中できた時の小沢選手の強さは圧倒的だ。



狙い通り、思い通りの反応を得て快調に飛ばす小澤選手。こうなると手が付けられない。

 初日もいよいよ最後の第4試合となった。各選手にとっても体力的に非常にきつい試合だ。また、第3試合を終わっての順位は選手には分からない。目の前の九頭竜川から1匹でも多く釣ることに集中するしかない。

 Aブロックでは小澤選手が中州の右岸側の流れを一人で攻められる好位置にポジションを取り、応援に駆け付けた兄、聡さんの前で開始から6匹まで順調に掛けていた。周りに他の選手はおろか一般の釣り人もいなく、どれだけ掛けるのか、というスタートをきった。中盤でやや失速したものの16匹で高橋選手を抑えてトップを獲得した。これにより二人ともが初日最終で順位を一つ上げ、高橋選手が暫定2位、小澤選手が暫定4位と好位置を確保した。

Bブロックではここまで苦労していた森川選手が気を吐き8匹で楠本選手とトップを分けた。楠本選手はこれで島選手を逆転し、初日暫定首位を獲得。昨年はスタートに失敗したが、頂点での戦いを多く経験する試合巧者は同じ失敗を繰り返さなかった。明日の2試合、このまま逃げ切れるか。

 Cブロックは栃木の後藤選手が初めてのトップを獲得、三嶋選手は2位を山田選手、塩野選手と分けることになったが、これでトップ5まで順位を上げてきた。スタートの12位から徐々に上げてきた三嶋選手はプレッシャーが掛かっても自分のスタイルが崩れないことは昨年の試合で分かっている。上位の選手にとっても非常に気になる存在だろう。


自分の釣りが展開できている時は、心なしか表情も穏やかに見える。この時は目の前に誰の応援よりも心強
い兄、聡さんが来ていた。手にするスペシャルトリプルフォース早瀬もその聡さんが開発に携わった竿だ。


初日最後の第4試合で4位と不本意な結果に、疲れを見せる島選手。



試合後川に浸かりクールダウンする高橋選手。島選手同様、さすがに疲れを見せる。


楠本選手が狙う流れも縦波が連続する流芯だ。自らが組み立てた戦術通りの戦いを展開した。


流芯におとりが入れば答えは確実に帰ってくる。それが今回の九頭竜川だった。


ち密な戦略と豪快な攻めは今大会でも結果を出した。初日は並み居る強豪を抑えてトップに立った。翌日の
残る試合は、初日と同じ時間を同じエリアで戦える組み合わせだった。楠本選手の決勝進出は、どの選手
よりも決定的なものかと思われた。


楠本選手が大会に臨む姿勢は常に真剣だ。変幻自在なその釣りは一見すると野性的に攻めているかのように見えるが、すべての行動に根拠を持ち、それを蓄積していく。強さの秘密はそこにある。

 3試合単独トップの完璧な試合運びでDブロックを迎えた島選手は、トップを直接的に争う選手が同組に居なく、厳しかった昨年の大会でもトップタイを獲得したこのブロックは難しくないものにも見えた。しかしながら90分を終えて6匹という結果に終わり、4位タイで2.5ポイントと取りこぼしてしまった。ただ翌日の残り2試合は結果を出したAとBブロックで戦える。第4試合の結果を引きずることなく、体力と共にリセットして戦えるかに注目だ。

 初日4試合を終えての暫定順位はトップ5が楠本、高橋、島、小澤、三嶋選手の納得の顔ぶれとなった。6位以降が松田、門脇、宮原、手塚、10位の君野選手と続く。予選リーグ3位までに入る現実的可能性があるのは15ポイントの君野選手くらいまでとなる。トップ5では翌日の第5、第6試合を楠本選手と小澤選手が、島選手と三嶋選手が同じ組で戦う。高橋選手は単独だ。一見高橋選手が戦いやすいようにも感じるが、トップ3を争う選手が同組に居ないと言うことは自分の力で直接的に抑えられない。この時点で高橋選手の場合、残り2試合で11ポイントを獲得すれば他の選手の結果に関係なく決勝進出が決まる。それ未満の場合は他、選手の結果次第では決勝進出が叶わない場合も出てくる。11ポイントを獲得するには1位と2位が必要だ。それは見える相手より釣ればいい、という戦いよりも難しい。これがジャパンカップ予選リーグルールならではの面白さだ。明くる日も九頭竜川は最高の条件で選手たちを迎えてくれそうだ。決勝進出へ向けてより熱い戦いが期待される。


坂東島を御漁場とする岐阜のN名人。剛竿におもり、肩で波を切りハイペースで野鮎を掛けて行く。九頭竜川の名手の一人だ。


1日目の戦いを終え、翌日の戦いに英気を養う懇親会会場での集合写真。初日とはまた違い、明日への駆け引きも見られる。
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