□ 総 括
 昨年は開催日も鮎シーズン終盤近い9月下旬、かつ増水と濁りで厳しい中での戦いとなり、皆が手探りで戦う中をアグレッシブに攻めた選手が上位に来た大会だった。今年は一変し、九頭竜川も最高潮に達した8月末、尚且つ増水からの引き水という好条件下での大会開催となった。参加選手も当代の実力者が顔をそろえた。30代、40代の選手が多く、技術、体力ともに充実した選手たちの熱いバトルが期待された。そして大会はその期待通り白熱した展開を見せた。ただ、条件が良かっただけに6試合の予選リーグを終えてみると、そのわずかな実力の差が大きな差となって表れていた。各メーカーの看板をしょって立つ選手たちのレベルの高さを感じた大会でもあった。
その名手たちが如何に戦ったのかを総括してみる。


名川、九頭竜川は最高の状態で選手を迎え入れてくれた。


24名の選手それぞれが決意をもってここに集まった。


今大会最年少の井川選手は初出場ながら、インストラクターと言う看板に相応しいパフォーマンスを見せてくれた。今後の活躍が期待される。


デフェンディングチャンピオンとして挑んだ三嶋選手は今回も高い適応力を見せた。追われるものの立場で戦った今回の経験は大きかっただろう。


全国から集まった名手24名

 □三者三様
 上位3名は追いの良い鮎だけを求めて広く動けるポジショニングを常にとっていた。しかし釣りのスタイルは全く違う。

 島選手は終始ノーマル仕掛けでおとりと会話しながら野鮎の反応を釣果につなげる釣りだった。一見すると九頭竜の瀬はノーマルで攻めることを躊躇する流れに見える。しかしそこで追いがある、ということは野鮎はその流れの中を自由に泳ぎ廻っている、ということになる。元気なおとりを循環し、うまく泳ぎを手助けできればノーマルでも十分探れるということだ。
 島選手が得意とするソリッドでの釣りはまさにその手助けがキモの釣りだ。強すぎず弱すぎずおとりが泳ぎやすい状態を与え続ける高度な技術をソリッドは演出してくれる。それを極めていればこそ、今回チューブラー穂先でもその許容幅の極めて狭い範囲でおとりを泳がせることができるのだ。そのためのTF急瀬テクニカル選択でもあった。
 それが実現できると大きなメリットが生まれる。野鮎の気配をより多く感じられることだ。追い鮎を求めて次々とポイントを叩いていく釣りにはこれが最大の武器になった。その証拠に今大会、島選手が唯一おもりを使った場面があった。
 予選リーグ第1試合、Aブロックで20匹を掛けた試合だ。入ったポイントは中州を挟んだ右岸側。右岸からは渡れず、左岸からも遠いポイントでの第1試合、そこには付鮎が多く残っていた。その激しい追いにおとりが逃げる。それを抑制するためにおもりを使った。
 九頭竜の激しい流れの中を見透かすように探ることができたことに対する自信が、その後表彰台の頂点に立つまで一切揺るぐことがなかった。開始3試合をトップで終え、第4試合、第5試合を4位、3位と落したものの、そこで今回の釣りスタイルを変えることなく、トップ獲得しかない、と追い詰められた第6試合でも極めて冷静だった。勝たなければならない三嶋選手が開始早々1匹目を取り込むのを目にし、自分は根掛かりでマイナス1匹、2匹のビハインドで絶対絶命かと思えたが、そんな状況下でも竿から感じる野鮎の気配に完全集中していた。三嶋選手が島選手の動向を常時気にしながら戦っている姿が目に付いたが、対して島選手は自分がプライベートで普段釣っている気持ちのまま楽しみながら釣っているかのようだった。昨年の三嶋選手がそうであったかのように。第6試合も終了間際まで三嶋選手がリードしていた。しかし島選手のブレない気持ちが最後の入れ掛かりを引き寄せ優勝への足掛かりをつかんだのだ。


この一瞬だけ感極まる表情を見せた島選手。高橋選手のプロとしてのプライドに勝てたのは、この表情
の裏にある積年の思いと、それを成し遂げるために積み重ねた真面目な努力だったのかもしれない。

 対して高橋選手はシモツケのブラックバージョンファイターという剛竿に2〜3号のおもりを常用、タモも九頭竜の川漁師から発想されたという「激流振子 巾着網」、サイズも水流抵抗の少ない25DRを用意していた。目印も付けていない。このタックルで挑むには、まず急瀬の中で安定して立つことが前提だ。ふらつけば即トラブルにつながる。今大会参加選手の中では急瀬の立ち込み、移動、取り込みは一番安定していた。
 その高橋選手の探り方は立ち位置から下流へおとりを送り込み、自分が中心の扇状におとりで底を掃くように引き上げて行く。引き上げきったら少し立ち位置をずらして繰り返す。見ていると自分の正面に来るまでに掛かる場面が多かったようだ。この釣り方のメリットは何と言ってもテンポの速さだ。おとりが動く距離は島選手よりも多かっただろう。
 このテンポを持続するには取り込みも重要だが、完成された九頭竜返しで危なげなく取り込んでいた。掛かり鮎が水面を割ると竿のパワーで一気に上流方向へ飛ばす。飛ばすと瞬時に竿先は下流方向へ。穂先はすでに上流へ向いて曲がり、スピードと方向をコントロールしている。それとともに体勢はそのままで、顔だけを動かし視線で鮎を確認しながら鮎よりも先に着地点を見据えている。竿、体勢、着地点の見極め、全て鮎より先に整っているので狙った位置に極めてスムーズに掛かり鮎が着水する。体が上を向かないので体勢も崩れない。あとは理想的に流れてくる鮎を振子タモにつるしこむだけだ。この一連の動作を淡々とこなして釣果を重ねて行く。
 しかしそれだけが強さの秘密ではない。例えば今回のDブロックでは右岸側へ渡れば竿抜けの可能性が極めて高いポイントが広がっている、しかしそこへたどり着くには九頭竜川の奔流を泳ぎ渡るしか術がない。もちろん渡れば帰ってくることも必要だ。高い渡河技術を持った他の選手達でもそのリスクを考え諦めた戦術を何の迷いもなく選択し実行する。九頭竜川の鮎を如何にして攻略するのか、だけをストイックに追い求めた結果からの行動だった。そうかと思えば釣り人の多かったCブロック、飯島エリアでは居並ぶ一般の釣り人の間を探るのではなく、幾筋にも別れた流れに中にもある強い流れに立たなければ攻められないポイント、釣り人が多いのに竿抜けとなっているポイントを的確に攻め、一般の釣り人とは異次元の釣りを展開していた。
 今回の九頭竜川では追う鮎が強い瀬にいた。だからそこを攻める。強い瀬を攻めるにはこの道具立てでこの釣り方、考え方は極めてシンプルだ。高橋選手と言えば京都上桂川で鍛えた泳がせ釣りのイメージも強いが、その河川、その時に追う鮎がどこにいるのか。浅いチャラやトロならそこを狙う。その時はどういった攻め方が適切なのかを判断し、一番効率が良いスタイルで釣る。それが高橋選手の強さだろう。そして昨年あたりからその強さが際立ってきた。TV、DVDや実際に見た釣りスタイルが、以前と大きく変わったようには見えない。なぜ安定して強くなったのか。そこを聞いてみると結果に固執せず、ダメでもその事実を受入れ、思考は次を向く。もちろん失敗も引き出しには蓄積されていく。しかし次の試合ではまたそこに潜む鮎を如何に掛けるかに集中する。常にポジティブに考え、動く。それがここ最近の強さの源のようだ。プロフィールインタビューで、今年のマスターズ優勝でさえも「過去は忘れた」と言い放つのは、あながちリップサービスではなく、今の高橋選手の強さを端的に表す言葉だったのかもしれない。しかし今大会では、表彰式も終わった帰り際にはあっさりとはしているが、負けた悔しさを目いっぱい表してくれた。次はさらに強くなってくるだろうと予想させられた瞬間だった。


恐怖さえ覚える流れに身をゆだねる高橋選手。九頭竜川の鮎をどう攻略するか?
それだけを考え、その答えが体を自然に動かす。迷いが無い名手ほど強い者はいない。

 小澤選手がどの竿をチョイスするのか。今回の大会では非常に興味があった。もやは右腕と言えるリミテッドプロFW VeryBEST 90NL type-Tを使うのか。しかし第1試合に手にしていたのは下見の結果から選んだスペシャルトリプルフォース早瀬90NLだった。この竿は兄、聡さんが開発に携わった竿だ。島選手、高橋選手が選択した竿よりもパワー的には弱い竿だが、その分、感度、操作性は良いと言える。完成されたテンションコントロールで戦える範囲で、尚且つ九頭竜の強い流れ、23p級の良型をも相手に出来る竿、その条件下でギリギリの選択だった。しかし第1試合、第3試合のBブロック、坂東島では苦戦する。急瀬の立ち込みでは小柄な小澤選手は高橋、島選手に僅かだが劣ってしまう。果敢に攻め入るもののキレが悪い。だが流れが多様なAブロックの第2、第4試合では思い通りのキレのある釣りでトップだった。これにより1日目終了時は暫定4位、今日と同じ戦い方では上位3名に勝てないかもしれない。そう考えた小澤選手が翌朝の第5試合ではリミテッドプロFW VeryBESTを手にしていた。最も信頼がおける道具で戦うことで迷いがなくなる。その効果もあってか楠本選手をなんとかかわし、決勝進出3枚目の切符を手に入れた。そして決勝でもそのままリミテッドプロFW VeryBESTで戦った。その決勝ではバレに悩まされる。掛けた鮎は島、高橋選手と同等かそれ以上だっただろう。今回の九頭竜川では島、高橋選手は第1試合から決勝まで同じタックルで挑んだ。変えたのは針とおもりだけだった。二人は全く違うスタイルの釣りだったが九頭竜川の鮎を攻略するスタイルとしてはそのどちらもが正解だった。そこに真っ向勝負を挑んだ小澤選手だけがそのスタイルに悩んでしまった。坂東島の流れに自分のスタイルを合わせようとしたが2回とも跳ね返される。これを自分のスタイルで最も効率よく攻められるポイントを選ぶことを選択していたならば異なった結果になったのではないかとも感じた。しかしこれは頂点に立った者だからこその選択だったのかもしれない。


苦しみながらもこの結果を得られることは小澤選手の高い実力の証明でしかない。一度は到達点が
見えたと考えたかもしれないが、また更なる高みへ、異次元の友釣りへと突き進む原動力を得たか。


高橋選手の華麗な九頭竜返しをどうぞ!
@立ち位置から下流に送り込んだおとりを引き上げて行く。この時点
ではおとりはまだかなり下流に居るが、一番沖へ出た状態だ。
この手前から沖へ出て行くところで掛かることが多いようだった。


A野鮎が掛かると遊ばせることなく素早く浮かせる。
このタイミングが遅れると高橋選手でも付いて下がることを強いられる。
竿のパワーも要求される。
※竿のしなりが良く分かるように黄色く表示します。


B一般の方と大きく違うのがここだ。掛かり鮎が水面を切ると
竿のパワーで一気に飛ばす。力みは一切感じられない。
腕力ではなく竿の力を最大限生かして飛ばしているように見える。


C掛かり鮎が自分の前を通過するよりも早く、反発力がまだ残る竿先は
すでに下流方向へ向いている。掛かった鮎も良型だ。
ラインの緩みはない。


D掛かり鮎が自分の前を通り過ぎたときにはすでに着水に向けての
コントロールに入っている。竿の反発力もほぼ抜けてまっすぐに近い。
竿には掛かり鮎の重みがすでに掛かり始めている。



これは一般の方の九頭竜返しだ。掛かり鮎の位置は左の写真とほぼ同じ
だが、竿先の位置はこんなにも違う。竿のパワーと腕力で抜くとどう
してもこのような軌道を描く。ラインは完全に弛んでいるのでこの時点
ではコントロールできてない。


E完全にコントロールされた掛かり鮎は徐々に減速していく。




F減速されたら着水に向けて竿が起きて行く。鮎の重みで自然に
起きて行く感じだ。だから竿も片手で操作できる。空いた左手で
タモの位置調整が始まる。


G視線はしっかりと掛かり鮎を追っている。左手ではタモを自分の
正面に移動させている。立ち込みを安定させるために必要最低限の
装備しか身に着けていない。ドリンクホルダーももちろんない。
ジャケットも必需品だ。これは島選手や小澤選手、三嶋選手も同じだ。


H理想的な位置に掛かり鮎が着水した時にはすでに体勢は整っている。
あとは流れてくる鮎をキャッチするだけだ。@の写真と比べても
立ち位置はもちろん、腰から下の向きは変わっていない。これなら
水流に体がぐらつくこともない。


今大会で掛かった九頭竜の鮎。18〜22pほどの良い鮎が多かった。
大きいものは25p級だったが、思ったより割合としては少なく感じた。


表彰式も終わって高橋選手が最後に見せてくれたのがこの表情。
一番悔しいのは本人だ。しかし次の瞬間には先を見ている。


島選手の勝利した針。段針と言う。色々な組み合わせがあるそうだが、これはしわり系が8号、ストレート系が7.5号の針を対角線上で組み合わせている。針先が隣り合う針と「段」になっている。イメージは鮎に当たった時には1本の針が当たった方が刺さりやすい。しかしキープ力は2本がしっかり刺さった方が良い、という発想から考えだされた。使い始めてこれで4シーズン目にもなるそうだ。


高橋選手の使用した針。オーナーの荒瀬9号のヤナギ針だ。12号も使用した。またこれのほかに同じくオーナーの満開チラシも使用した。

 小澤選手が悩んだバレは今大会では多くの選手が同じ思いをしたようだ。私自身、大会直前に実釣した感触でも掛かってから逃げながらバレる感覚を多く持った。他の河川と何が違うのか分からない。針を変えても何が正解かが見えてこない。そこを考えるよりも1匹でも多く掛けることがキモに思えた。上位3選手にバレの割合について聞いてみた。島選手、小澤選手は30%、高橋選手は35%と感じたそうだ。頂点に立つ名手たちでもその原因を突き止め対応することができなかった。バレは、今の道具、仕掛け、友釣り理論では避けられないのだ。しかしながらこれが友釣りと云う唯一無二の釣り方の奥深さと面白さなのかもしれない。鮎には痛点が無いと聞いたことがある。針が刺さっても痛くて暴れるのではなく、体に何かが触れば違和感を感じるようだ。針が刺さるのは大きな魚に咬みつかれることと同じなのかもしれない。そうなれば鮎は命がけで逃げる。身をよじって逃げる。一生懸命逃げるからバレる。九頭竜川の鮎は逃げ上手?鮎の本能との戦いはこれからも続く。

エピローグ

 鮎釣りは見るよりも自分が釣る方が間違いなく楽しい。しかしながら全国の名手が縄張りを持つ鮎を掛けることだけに集中する真剣勝負を見ることはそれに匹敵するほど面白いと感じるようになりました。まさに24名が織りなすドラマです。この面白さと感動、興奮を少しでも伝えられたらと思い今回のサイトも作成しました。JAPAN CUP FINAL見に行きたい!と一人でも感じていただければ幸いです。2013年に引き続き、今回も貴重な機会を与えていただいたSHIMANO様、そして24名の選手に感謝いたします。