□予選リーグ 第1試合、第2試合
 シマノジャパンカップアユ30周年記念大会、その歴史に名を刻むべく全国から集まった精鋭24名を待ち受ける九頭竜川は、長い増水からの引き水で、大会の開催週になってようやく竿が入りだした時だった。鮎たちも秋の繁殖に向けて体力をつけるべく必死にコケを食む時期と重なった。水位が下がるにしたがっておとりが入るようになる更場では良型が間髪入れずに追い、浅瀬でも目印を激しく揺さぶる当たりが連発していた。持てる技術をすべて出し切って戦うにはこれ以上ない状態で選手たちを迎えることとなった今回の九頭竜川の懐に、うまく入り込んで勝利を手にする者は誰なのか。熱い戦いが始まる。

 大会の抽選と前夜祭は九頭竜川にほど近い福井市のメゾンドブランシュ・ローズガーデンで行われた。ここは福井市近郊の若いカップルが結婚披露宴を行いたいと願う人気の会場だ。選手たちは入場時に組み合わせ抽選を行い、ファイナルのキャップやベストを手にする。抽選では予選リーグ6試合全ての組み合わせとブロック、入川順が決まる。24名を6名づつの4組に分け、同じ組でブロックを変更し2試合を行う。予選リーグは6試合あるので選手の組み合わせは3回シャッフルされることになる。予選リーグでは顔を合わせない選手も出てくる。例えば島選手と高橋選手の予選リーグでの直接対決は無かった。また今大会では予選リーグのブロックを鳴鹿大堰から上流でA〜D、4つのブロックを設定していた。
 ゼッケン番号16番だった山中選手の場合を参考に説明すると、初日の午前中がCとDブロックを同じメンバーで戦う。同午後はメンバーが変わってAとBで戦う。2日目もメンバーが変わってDとCで戦う組み合わせになっている。山中選手の場合はC,Dに2回入ることになるが半分の選手はA,Bに2回入ることになる。入川順も1番から6番までに割り振られる。ゼッケンを手にした選手たちは食い入るように組み合わせを見つめ、明日からの戦いに思いを巡らせる。


九頭竜川は最高潮を迎えて多くの釣り人で賑わっていた。激流のイメージが強い九頭竜川だが、年配の釣り人達も思い思いの釣り場に立って、十分満足な釣果を上げている。懐の深さもこの川の大きな魅力だ。


選手たちがまず最初に行うのはゼッケン抽選だ。ゼッケンには予選リーグすべての試合のブロックと入川順が記されている。前夜祭の途中にはその組み合わせ表が配られ、選手の意識は明日の試合へ向く。


トーナメンターが憧れるファイナルのキャップ。たった一人の優勝者にはさらに真紅のチャンピオンキャップが授与される。


宴はデフェンディングチャンピオンの三嶋選手の乾杯でスタートした。

 宴は昨年度優勝者の三嶋英明選手の乾杯によりスタートした。耳に入ってくる各地の方言が、全国大会であることを再認識させる。次々と運ばれてくる美しい料理にアルコールが進む選手、アルコールには手を付けず意識はもう明日に向いているようにも感じる選手と様々である。途中で大スクリーンに投影される各選手のプロフィールには皆の注目が集まるが、印象に残ったのは、高橋選手の戦歴で、「過去は忘れました」と記されていたことだった。高橋選手と言えばつい先週には、ジャパンカップと共に鮎トーナメンターの夢であるダイワマスターズを制したばかりである。それをも過去としてしまうのだろうか。その時には単に恰好をつけているのか?とも感じたが、その本当の意味は大会を通して理解することとなるのであった。華やかな宴の中締めが済むと選手は足早に宿泊先の部屋に戻って行く。ファイナルのベストやキャップを戦闘状態にセットし、明日からの決戦に備えるためだ。夜が明ければあっという間に1回戦が始まる。はたして今年の九頭竜川は選手たちを如何に迎えてくれるのだろうか。


谷口の大会本部では大会を盛り上げる多くののぼり旗が静かに選手を待っていた。

 今回は大会本部が永平寺の燈籠流しが行われる「谷口」の河川敷に移された。昨年のジャパンカップでは決勝戦が行われたエリアだ。朝特有の海へ向かって吹く風が川べりに立てられた多くの旗を揺らし選手を歓迎した。戦闘状態で集まった選手は各ブロック別に整列しバンで移動する。ここに戻るのは2回戦を終えた後だ。非常に重要な序盤2戦を思うように戦い戻ってくる選手は誰か。


ブロックごとに整列した選手たちを朝日が照らし出す。始まってしまうと1日はあっという間だ。


いつもの笑顔で緊張を見せない島選手だったが、この大会に懸けるその思いは誰よりも強かったのではないだろうか。


高橋、楠本選手はすでに集中を高めていた。すぐにでも川に立ち込める雰囲気だった。


第1試合のおとり配布頃にはまだまだ夏を感じさせる朝日が選手たちを包む。朝霧が今日一日の好天を約束する。

 第1、第2試合は三嶋、松田、島、小澤の注目選手が戦うA、Bブロックを観戦する。多様な流れと多い一般客の中で釣るAブロック、九頭竜川の看板エリアである坂東島中心のBブロックで名手たちの攻略方法を見れば今大会の方向性も見えてくるだろう。とはいえ、ここ九頭竜川は川幅が広く中州も多く存在し、選手を追い切れない場所が多い。比較的選手の動向を観察しやすいBエリア、坂東島の瀬で前半戦を見ることにした。
 どの試合もおとり配布から試合開始までは少し猶予があった。終了時は試合時間終了後10分以内に検量所に帰着するルールだ。選んだポイントによっては少し試合時間を残して終える必要も出てくる。A、Bブロック中間点になるおとり配布、帰着場所は坂東島の瀬肩少し上になる。Bブロックではおとりを受け取った小澤、市岡、後藤の3選手がそのまま川の中を瀬肩付近へ移動を始めた。残りの中西、山田、荻島選手は坂東島の瀬が落ちてやや緩くなった平瀬周辺にポジションを求めた。小澤選手は瀬肩の波立付近、市岡、後藤両選手は瀬肩鏡にポジションを取った。
 坂東島に挑む小澤選手の手にはスペシャルトリプルフォース早瀬90NL(以降TF)が握られていた。小澤選手は普段、かなり強い流れでもFWverybestを使っているイメージがあるが、今回TFを選んだということは、この九頭竜川では掛かってからの取り込みも循環に重要な要素だと考えた証拠だろう。そのTFは開始まもなく弧を描く。一人瀬に入って行く小澤選手の独擅場かと思われたが、以外にも瀬の中での反応が薄いようだ。1匹目がイメージ通り掛かったのに次がこない。普段の釣りでも非常に迷う場面だ。小澤選手は坂東島の広い瀬を横に探りながらパターンを探して行ったが、釣果は8匹(おとり2匹込、以降共通)、ブロック3位で終わった。第2試合で攻め口を見つけられるか。
 対してBブロックで好スタートを切ったのは京都の中西選手だ。岸際に立ち丁寧に手前から攻めたことが奏功し序盤から数を伸ばし、12匹でトップを獲得した。ここが坂東島で有るがゆえに釣り人が立ち込む位置を狙ったことが吉と出た。九頭竜川にはこういったポイントが多く点在すると考えていたが、早くもその一端を垣間見た気がした。ただ、次のブロックでも同じような人為的竿抜けを見つけ出すのは簡単ではない。中西選手が使用していたVARIVASのクアトロエディションという竿は、見ていると繊細なコントロールを行うのに適した先調子にも見えたが、良型が掛かっても余裕をもって対処できていた。
 中西選手のやや下流に入った荻島選手が小澤選手を抑えて2位を獲得、瀬肩に入った後藤選手は根掛かりに苦しみ2匹で第1試合を終えた。流れが緩く見えるトロ場でも水深があるとなかなか根掛かりの回収は困難だ。


坂東島を攻める三嶋選手。第1試合だけが3位で、その後の試合は全て2位以上と非常に安定した戦いを展開した。どんな流れでも釣りこなす対応力の高さは昨年からさらに磨きが掛かっていた。

 検量はAとBブロックが並んで行われる。Aブロックでは島選手が思い通りの釣りを展開し20匹で2位松田選手に9匹の大差をつけてトップスタートを決めた。島選手が探った場所は市荒川の放水口から600mほど下流の大きな中州を挟んだ右岸側の流れだ。広い流れが絞り込んで開いた早瀬だ。下見で良い感触を得ていたようだが、ここへたどり着くのは上流部から広い流れを切ってくる必要があり、検量所へ戻るにも時間が掛かる場所だった。ゆえに一般客も少なく、上下に広く探れる好場だった。 釣り人が多い九頭竜川では立ち位置から沖へは出やすいが、流れや水深に阻まれる。広く上下に探れるポジショニングは有効な戦術だ。
 デフェンディングチャンピオンとして挑む三嶋選手も松田選手に続き手堅く3位を得た。森川選手はBブロック後藤選手同様根掛かりに苦しみ釣果なしと言う厳しいスタートとなった。


昨年同様、トロを中心に丁寧に攻める松田選手



島選手は大会に懸ける強い思いをぶつけるかのように、序盤から九頭竜の奔流に挑んでいた。真っ向勝負だ。


序盤からイメージ通りの釣りを展開する島選手は、第3試合まで連続トップという快進撃を続けた。(第2試合、坂東島で良型を掛ける)


小澤選手は第1試合の坂東島で思うような釣果が得られず苦しいスタートとなった。


第1試合坂東島での小澤選手。上写真の島選手が立つ位置は誰もが攻められる場所ではない。対して小澤選手が攻める場所は比較的攻めやすい場所だ。坂東島では立ち込み技術が釣果に影響を与えるのは確かだ。


坂東島の岸際に立ち、釣り人が立つようなエリアを的確に攻めた中西選手はトップでスタートを切った。立ち込みだけが攻め方の全てではないことをいきなり証明して見せた。


東京都の荻島選手は恵まれた体躯を活かして瀬に勝機を求めた。序盤を連続2位で好スタートを切った。


山田選手が攻めているような平瀬は、ここ数日竿が良く入っていたようで、掛かるのだが爆発力に欠けていた。


昨年同様、トレードマークのブルーのシャツで挑んだシードの塩野選手。しぶとい釣りで2位、1位と好スタートを切る。じわじわと上位に絡んでくるのか。


坂東島の瀬肩を静かに攻める市岡選手。終始自分のペースを崩さず普段通りに釣っていた。


百戦錬磨の森川選手は根掛かりに苦しめられ、イメージとは程遠いスタートとなってしまった。


通算5度目のファイナルに挑む山田選手は、九頭竜のパターンを掴みきれず苦しいスタートとなった。

 一方Cブロックでは楠本選手がこれも20匹で2位の高橋選手12匹を大きく引き離してのトップスタートを決めた。昨年、この第1試合を落としてその後の追い上げ切れなかった失敗を繰り返すことは無い。一切の気負いを見せない高橋選手は手堅く2位発進とした。
 下見をした選手が厳しいと言っていたDブロックでは今大会最年少の井川選手がトップを得た。以降は君野、塩野、門脇の3選手が2位を分ける接戦だった。

 検量を終えると慌ただしく第2試合のおとり配布が始まる。Bブロックに入った島選手は、小澤選手と同じように坂東島の瀬肩に立つ。上流には松田選手、下流には三嶋選手の姿が見える。松田選手は昨年の大会、このポイントで手堅くポイントを稼ぎ決勝へコマを進めた。第2試合が始まった。小澤選手より一歩前へ出て探る島選手の肩まで九頭竜の水が被っている。どちらかと言うと小柄な島選手だが、長良川中央で鍛えた立ち込み技術は坂東島でもその姿を大きく見せる。当たりバレがあるようだが着実に釣果を重ねていく。縦に探る島選手に対し、横に動く三嶋選手も追従するが瀬の前半を攻める島選手に当たりは多く出ていた。第1試合で中西選手がトップを獲った辺りには宮原選手が入っていたが、その立ち位置は中西選手が釣っていたポイントだった。誰もが立つ場所では当たりが遠い。島選手は17匹で唯一連続トップを獲得した。三嶋選手もきっちりと2位を確保していた。


1回戦で不本意なスタートとなり厳しい表情を見せる小澤選手。普段より明らかに多い汗が気になる。



坂東島に立つ菅野選手。後ろには応援に駆け付けたスーパースリー、チームメイトIさん。今回ともにファイナル進出を果たした荻島選手と3名で第2回全日本鮎釣チーム選手権を制した仲間だ。


さんの応援に応えて掛ける菅野選手。


荻島選手は手前から丁寧に探りながら徐々に沖へ進み釣果を上げていた。


初出場の井川選手、Dブロック第1試合をトップでスタートする。



経験豊富な宮井選手は、厳しい条件になるほど実力を発揮するが、今回の九頭竜は手に合わなかったようだ。

 Aブロックでは坂東島ほどではない流れが多く、自分の攻めが100%発揮できる小澤選手が体調不良に悩まされながらもトップを獲得していた。荻島選手も連続2位と好位置をキープしている。トップスタートを切った中西選手は6匹で最下位となってしまった。比較的入川しやすいAブロックでは連日多くの釣り人でにぎわっていた。第1試合の中西選手のように立ち込まず釣る方も多い。釣果は深く速い流れで安定していた。これを察知し次の試合で修正できるか注目したい。

 Cブロックでは第1試合、井川選手に負けた君野、塩野、門脇の3選手が揃って井川選手を抑えた。ブロック別釣果でも1、2試合ともこのCブロックがトップと釣れていた。

 そして圧巻はDブロック。高橋選手が24匹で2位の楠本選手10匹に14匹の大差をつけてトップだ。Dブロックは広大なトロが主体で、下限付近に少し変化が見られる難しいブロックだったが、そこを右岸側に渡河し、ほぼサラ場を独占して攻めていた。誰もがそこは良いポイントに見えただろうが、この深く広いトロを泳ぐと言う選択をできなかったなかでそれを選択した高橋選手の独り舞台だった。対岸へ行けば帰りも時間を要するので、実質80分ほどの釣果だと言うことを理解するとその凄さが分かる。しかしながら楠本選手もしぶとく2位を確保して終えていた。
第2試合が終わると一旦大会本部へ戻り昼食だ。ここで暫定の順位も選手たちは知ることができる。連続トップの島選手が首位、ポイントは同じながら占有率で高橋選手が2位、楠本選手が3位、小澤選手がそれに続いた。三嶋選手もトップから3ポイント差で、上位を狙える位置をキープしている。関東勢の誰かがこの序盤で調子づくかと考えていたが、塩野選手が6位、荻島選手が7位とやや出遅れた感じだ。
さあ、選手組み合わせもシャッフルされ、各選手はまた新たな気持ちで中盤戦へ突入していく。


完成された釣技で探る小澤選手だが、坂東島では期待した反応が出ない。


小澤選手が大きく移動するときは思い通りの釣りができていないときだ。


自分の竿を休めて観客となった釣り人、メディアが坂東島で展開される高橋、小澤の勝負に注目する。



激流師が集まる九頭竜川だが、ここまで立ち込む釣り人はほんの一部だ。当然野鮎は多く残っている。ただし立ち込むだけでなく、その激流に確実におとりを沈める技術も必要だ。


島選手の攻めには迷いが見られなかった。狙ったポイントで確実に追わせる




ノーマル仕掛けでおとりを沈めるための道具立てゆえに、九頭竜返しには体を目一杯使って対応していた。今回の九頭竜で掛けること、取り込むことのバランスで島選手が出した答えだ。大会最後まで変わらなかった。


坂東島の瀬を攻める島選手。今大会で以外にも一番釣れなかったこのBブロックであるが、釣る人は釣っている。
攻め方で大きく差が出た証拠だろう。九頭竜川坂東島のスペシャリストとも言える岐阜のNさんは、この日も
ほぼこの写真に写っている範囲の右岸側だけで、73匹の釣果を得ていた。キャパシティは十分にあるが、攻略
は難しい。

END ページトップへ戻る