□予選リーグ 第5試合、第6試合
 1日目の戦いが終わってホテルに戻り一息ついた後は懇親会だ。上位選手へはカメラが向けられインタビューが行われる。残念ながら決勝進出が厳しくなってしまった選手たちは、他の選手と交流を深めたり、鮎釣り技術の情報交換などに余念がない。全国各地からやってくる実力者たちとのこういった機会はなかなかないので、みな積極的だ。鮎釣りと言うキーワードだけで容易に意気投合できることは非常に素晴らしいことだと感じた。
 決勝進出を狙う選手たちは、すでに残りの試合に意識が行っている選手も多い。アルコールにも手を付けず、明日の体調を考えて食事を摂る選手もいる。島選手などは、支給される朝食や昼食にも試合終了まで手を付けていなかった。試合中の体調に万全を期すためだそうだ。

 九頭竜川は2日目の朝も選手たちを穏やかに迎えてくれた。天候や水況に大きな変化は見られない。数時間後には選ばれし者が表彰台で第30回のJAPAN CUPを手にしている。まずはその権利を手中にするべく戦われる、第5、第6試合を振り返る。

 今大会では予選リーグのブロックが4つに設定されていたことから、第5、第6試合では、2回目のブロックで戦うことになる選手が多い。前日の戦いをうまく活かせることができるか。下位の選手たちも各地の予選会でともに競った選手たちや、仲間たちの応援にも応えるべく、なんとか上位選手を抑えて納得のいく結果を一つでも残そうとしてくる。となれば上位選手たちも気を抜けるところなど少しもない。1日目とはまた違った予選リーグが始まる。


2日目の朝、戦いを共にした選手同士は仲間になる。しかしブロックへの移動が始まればまた譲れないライバルとなる。


今大会の華はアングラーズアイドルの石川文菜さんとタレントの荒井沙織さん。選手がほっとするひと時を与えてくれる。


大会の華二人に送りだされるとどの選手も一瞬緊張が緩み笑顔になる。


おとりを受け取り目指すポイントへ走りだす選手たち。スイッチが入る。


第5試合をトップで終え、最終第6試合坂東島を攻める三嶋選手。昨年以上の強さを見せたが、今大会ではそれをさらに上回る強者がいた。


目立たなかったが、最後には上位に絡んでいる松田選手。今回上位5名に圧倒されたが、取りこぼしが無い戦いぶりは高い実力を物語っていた。


三嶋選手はどんな試合でも楽しそうだ。自分のスタイルを崩さない釣りでの結果に後悔はない。


昨年の大会では松田選手の後を追うように決勝へ進んだ塩野選手だったが、第3試合で崩れたリズムをその後戻せなかった。


可能性を求めて最後まで広く動いて戦っていた宮井選手。結果は付いてこなかったが、負けた試合ほど得るものは多い。


中盤から終盤に兄貴的存在の三嶋選手を援護する結果になった井川選手の釣りは、どんな状況にも高いレベルで対応できることが強みだ。

 第5試合、Aブロックでは4位島選手と追い上げてきた5位三嶋選手の直接対決が始まった。三嶋選手は目の前にいる島選手を追従し勝つことができれば必然的に決勝進出のチャンスが巡ってくる。追う立場が精神的に有利なのは他の競技と共通している。対して島選手は、目の前の三嶋選手を抑え、さらに見えない上位3選手をも追わなければならない。精神的にも非常にタフな戦いを強いられた。そんな中でも島選手は13匹を検量場所へ持ち込んできた。しかし右岸よりの広いエリアを探った三嶋選手はさらに上を行く18匹と島選手を圧倒する釣果を持ち込んできた。昨年の大会同様、この勝負強さには驚かされる。そしてジャパンカップ3回目となる今大会最年長の手塚選手が二人に割って入った。島選手はこの時点で小澤選手にかわされ4位へ順位を落とし、0.5ポイント差で三嶋選手がそれに続くことになっていた。ただ本人たちはその順位を把握できていない。

 関東勢ばかりの組み合わせとなったBブロックでは長野の小島選手がトップを獲得し一矢を報いた。松田選手はここで6ポイントを獲得すれば勝機が見えてくるはずだったが、小島選手に1匹負け、2位を分けるに留まり、順位の変動なく最終試合を迎える。

 ポイントがバラエティに富むCブロックでは絶対に負けられないという気迫に満ちた楠本、小澤選手の白熱した戦いがあった。楠本選手は第1試合でトップを獲得し自信もあったが、ここにきてのバレにペースを上げきれず14匹で終えた。小澤選手は中州の広く動けるスペースを取れる立ち位置で堅実に掛け、16匹で楠本選手を抑えることに成功した。2ポイントあった二人の差は1ポイントに縮まった。そしてこの二人を釣果21匹で抑えたのが井川選手だ。立ち込む楠本選手の背中を見る場所から中州で別れる左岸側の分流を的確に攻めた。二人を抑えたことは、追い上げる兄貴分、三嶋選手と楠本、小澤選手のポイント差を1ポイント縮めたことになる。

 そしてDブロックではおとり配布後皆が下限エリア付近を目指す中、ただひとり海に設置されるような巨大なテトラを降りて行った。そう、高橋選手である。第2試合でもこのDブロックで唯一対岸へ泳ぎ渡りトップを得ていた。ただ渡河場所を誤り、体力を大きくロスしてしまったため、この試合ではテトラ堰堤を激流が流れ落ちたすぐのところから泳ぎだした。ここは左岸側が流芯で右岸へ行くほど浅くなっている場所だが、よほど川を知った者でないと流れに身を預ける決心は出来ないと思えるほどの流れだ。もはや戦う相手は選手ではなく、九頭竜川の鮎を如何に攻略するのか、だけを純粋に追い求めているかのようだった。結果は2位の君野選手に7匹差、占有率も38.3%で他選手を圧倒しトップを獲得、そして楠本選手をかわし首位に躍り出た。

 第5試合を終えて3位の小澤選手が25ポイント、他力本願ではあるが、可能性では9位20ポイントの君野選手までが決勝進出の可能性が残る。上位選手も最後まで気が抜けない。


竿のパフォーマンスを最大限に引き出した島選手の釣り。竿全体がおとりの重さを感じて曲がっている時がニュートラルに見えた。
 今大会で島選手が終始使用した竿は自らが開発したリミテッドプロTFテクニカルだった。全ての試合を通して最も最適な選択に感じた竿だった。カタログに掲載されている島選手のコメントをここに載せておく。この大会、この戦いを予測していたかのようなコメントだ。 以下シマノHPより流用

「長良川の郡上や中央、九頭竜川といった比較的底石の大きな波立ちのあるフィールドで主にテストしました。急瀬でもテクニカルというだけあって、軽くて持ち重りがない非常に操作しやすい竿ですね。チャラ瀬や早瀬から急瀬までこの1本で幅広くカバーできます。テストではメタゲーム/メタマグナムの0.04号や0.05号を使っていました。細いと思われるかもしれませんが十分使えます。競技会で瀬を攻めるというような時にこれは大きな武器になりますね。当然仕掛けとのバランスや釣り場、そして釣り手の力量にもよりますが、テストでは最大25p級まで引き抜きました。また、15p級の小型オトリでも弱らせることなく対応できるのでサイズがバラつく天然遡上河川などでも使い勝手はいいです。
旧モデルに比べると若干しなやかな穂先がよい仕事をしてくれるので、オトリのなじみや操作性がアップしています。パワーと比較すると竿が曲がってくれるという意味で、タメるのが楽で、パワーより時間を要するものの腕力を使わなくても竿自体が抜いてくれるバランスですね。」
引用終わり


応援で同行していた奥さんの目の前で掛ける山中選手。家族の理解は戦う上で大きな原動力だ。


最終第6試合をトップで終え満足感と疲れを見せる宮原選手は、これからまだまだレベルを上げてくるだろう。


今大会最年長61歳の手塚選手はこれが3回目のファイナル参加の実力者だ。6試合は相当きついと思われるが、随所でそのテクニックを見せた。


山田選手が5回目のファイナルに挑む前には、この舞台で結果を残すにはまだ何かが足りないと語っていた。その答えは見つかったか。


九頭竜では非力かと思われる銘竿FWを巧みに操って戦い抜いた市岡選手。ソフトなおとり操作はどの河川でも通用しそうだ。


Dブロックの奔流に立ち向かう直前の高橋選手。すでに迷いはない。



激流に身を預け一般の釣り人ではたどり着けない領域を目指す高橋選手。恐怖心を上回る絶対的な自信がこれを可能にする。


真ん中やや上方に白くポツンと見えるのが高橋選手だ。手前に写るテトラを降りて流れに入って行った。九頭竜に挑んでも勝てる者などいない。九頭竜の懐に入り込むことができればその聖域に踏み込める。


第5試合、飯島の中州で狙い通りの釣りを展開する小澤選手。混雑する左岸筋とは違い、動ける範囲が広い。


入れ掛かりを演じる小澤選手。トップかと見えたが、井川選手がさらに上を行くピッチで釣っていた。


まさに老獪なテクニックで若手を脅かした門脇選手。仁淀川で培った川見術はさすがだ。


石田選手も入れ掛かりを見せたが、バレでリズムが崩れるとそれを取り戻すことに苦心していた。


関東勢ばかりとなった2日目の組み合わせ。残念ながら上位には絡むことができなかった。

 関東勢の戦い、Aブロックでは小島選手が後藤選手と共にトップを獲得した。松田選手はここでもトップを得ることはできず、昨年に続く決勝進出は果たせなかった。

 注目のBブロック坂東島では島選手がその瀬頭に立って開始を待っている。その少し下流では三嶋選手が同じ筋に立ちこの流れをどう攻めるかに思考を集中する。島選手はここでも三嶋選手に負けることになると決勝進出を果たせない可能性が大きいことは分かっていた。予選リーグ最後に最大の山場を迎えた。
 試合開始して3分、先に掛けたのは三嶋選手だった。危なげなく取り込む姿が島選手の視界に入る。第1試合からまったく自分のスタイルを崩さない強さを見た島選手だったが、さすがにこの状況は竿先をブレさせてしまったのか、痛恨の根掛かりを喫してしまう。坂東島の流れはその場まで行って外せるような流れではない。数度竿をあおっていたが、ここであっさりを竿を縮め仕掛けを切った。いきなりのマイナス1匹、負けられない三嶋選手とは2匹差のスタートとなってしまった。元気な天然を手に入れた三嶋選手、片や養殖1匹を残すだけとなった島選手、もう一度根掛かりや親子ドンブリでも喫しようものならそこで大会を終えてしまうことになる。立っているのはその可能性が大会エリアでも最も高い場所だ。如何に島選手でもこの状況下では厳しいかと思えた。全力を尽くし試合を終えた三嶋選手の引き船からは良型の鮎が11匹カウントされた。対して死力を尽くした島選手はなんと13匹、三嶋選手を逆転しトップを獲得した。
 根掛かりの時の判断を後に確認すると、無理をして外しに行けば仮に外すことができてもポイントをつぶしてしまうし時間もロスする。それならばさっさと切って攻めなおす方が良い、と判断したそうだ。その時点での順位、すなわち三嶋選手の動向も気にならず、下見から続く反応の良い九頭竜の鮎に集中していたそうだ。ここに今大会での島選手の強さを感じた。その結果が、第6試合も残り少なくなった時点で5匹入れ掛かり、但し1日目より若干水位が下がり、サラ場に届いたのか掛かる鮎が大きく3匹は取り込めなかったが貴重な2匹を追加し、三嶋選手を振り切り30.5ポイントで一気に楠本選手と小澤選手をかわし2位で決勝進出を決めたのだった。。

 釣り人が非常に多くなっていたCブロックでは高橋選手が強い流れに立たないと攻められないような小さな竿抜けポイントを効率よく攻め15匹で危なげなくトップを獲得、最大36ポイントで33ポイントと言うハイスコアで予選リーグ1位を決めた。他の選手たちに圧倒的強さを認識させるのに十分な勝ち方だった。

 もう一つの決勝のイスを求めてDブロックでも厳しい戦いが行われていた。小澤選手は楠本選手に1匹でも勝らなければならない。対して楠本選手は小澤選手に負けなければいい。結果は8匹で終えた3人の選手がトップを分けた。一人は小澤選手の影を追い続けた宮原選手、そして三嶋選手を援護射撃する井川選手、残る一人が小澤選手だった。
 宮原選手は手本とする小澤選手と最高の舞台で戦い、トップを分ける結果を得たことには感慨深いものがあったのでないだろうか。そして決勝進出は濃厚かと思われていた楠本選手は7匹で4位となった。これで決勝最後のイスは小澤選手が苦労しながらも手にした。楠本選手はあと1匹掛けていれば、という結果に泣いた。しかしながら楠本選手は2012年第3位、昨年第6位、今年は第5位、出場するだけでも大変なこの大会で常に上位に入ることは実力の高さを物語っている。


共にライバルとして高め合う二人が最後に戦うことになった。結果は1匹差で小澤選手の勝ちだった。


混雑するエリアであっても攻めるには立ち込みを要する細かなスポットが多くある。的確にそこを攻め釣果を重ねて行く高橋選手。


飯島の人気エリア。左岸側には一般の釣り客が並ぶ。中州側の強い流れに入り流芯を狙う高橋選手の位置取り。自由に動ける。


決勝進出を決め、やっと笑顔がこぼれる小澤選手。



圧倒的な成績で予選リーグをトップで通過して見せた高橋選手に笑顔はない。狙っているのは頂点だけだ。今は「予選」でしかないのだ。


自分の釣りを貫いた結果が、予選リーグ2位と言う形になったことに笑顔がこぼれる。決勝の戦い方も既に決まっている。

 予選リーグの結果を総括すると、高橋選手はポイント、占有率、総釣果とも断トツのトップで圧勝だ。総釣果94匹という数字もすごい。それに続く島選手が89匹でこの二人が頭抜けている。攻め方は全く違うものの流芯を徹底的に攻め、追いの良い鮎を掛けていくスタイルは共通だった。小澤選手は全ての試合で気力、体力をぎりぎりまで出し切って戦っている印象が残った。そんな中で貴重な1匹を積み上げて行けたのは技術の高さの証明だろう。
 今回この3選手が30ポイントを超え、4位三嶋選手、5位楠本選手が29ポイントという結果は、この上位5名の戦いが如何にハイレベルであったかを裏付けている。そして2位、4位、3位、1位、2位、3位と例年の大会で有れば十分決勝進出の可能性が有る成績でまとめた松田選手もさすがだ。その松田選手に次いで7位だった井川選手は総釣果だけで言えば第4位の70匹と釣っていた。今大会最年少の28歳と言う若さで、パターンを掴んだときの爆発力はすごい。技術的にもどのようなポイント、条件下でも対応できる懐の深さも三嶋選手に匹敵する。序盤でのムラを経験を重ねることで排除できるようになれば近い将来必ずトップを争うことになるだろう。
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