□決勝戦 9月22日 前半戦 11:40〜12:20・中盤戦 12:25〜13:05・後半戦 13:10〜13:50
 決勝のエリア設定は大会本部も非常に迷ったようだ。何よりも選手たちの実力が発揮できるよう「釣れる」こと、そしてギャラリーも多いことから観戦しやすい場所という条件も求められる。直前に決まったエリアは「谷口」だった。浄法寺橋下流の専用区の下に当たるエリアだ。その下流は徐々に波が消え、鳴鹿大堰の静かな水面へと繋がっていく。やや雲が出てきたが、秋の日差しが時折川面を照らし白く反射していた。風は微風、気温27℃、水温17℃と絶好のコンディションとなった。

 決勝戦はエリアを上流、中間、下流と3つに区切り、各ブロック40分で行われる。ブロックは10mのスパンを設けて設置され、各試合のインターバルは5分だった。予選リーグ上位からスタートブロックを選択できる。ブロックの条件が似通っていれば上流側を選択するほうが有利だろう。予選リーグ1位の松田選手は上流ブロックを選択、2位の塩野選手が下流ブロックを選択した。中間エリアを選択すると中間、下流と戦ったあとに上流まで移動することになる。少しでも体力があるうちに下流から上流の移動を済ませて最後まで集中する作戦だった。必然的に三嶋選手は中間からのスタートとなった。
 専用区外ではあるが、終わりが近づいた九頭竜川を楽しもうとする釣り人が多く居たが、決勝開始時には竿を置いて観戦する方が多く、決勝エリアはほぼ選手だけとなっていた。用意された最高の舞台に選ばれし3名が立ち、エアホーンを合図にいよいよ決勝がスタートした。

決勝はおとりを選手が選ぶ。試合はすでにここから始まっている。

決勝に向かう塩野選手。闘志がみなぎる。    

多くのギャラリーが見守る中を選手たちは戦う。
〈前半戦〉
 中間ブロックに入った三嶋選手は開始6分に1匹目を掛けると続けて同11分には綺麗な九頭竜返しで2匹目、同19分、25分と順調に追加していく。予選リーグ同様、場所にこだわらず広い範囲を探っていった。4匹目に続いて5匹目も入れ掛かったがバラシ。しかしすぐに5匹目を掛け、残り5分でさらにもう1匹掛けたがこれは痛恨のキャッチミスで逃してしまう。それでも込7匹でトップに立ち下流ブロックへ。

 上流ブロックは支流が合流し、石も見えて変化が掴みやすいところだ。水深も比較的浅い。松田選手は1匹口掛かりで掛けたもののその後は底バレやバラシがあり釣果を伸ばせない。しかし残り15分を切った開始27分に2匹目を掛けると同28分、32分と続けざまに2匹を追加し、込6匹として三嶋選手を追従した。

決勝でも攻めの姿勢を崩さなかった三嶋選手はスタートから立ち込んで沖目を狙う。

思ったところで掛け順調な滑り出しを決める三嶋選手  

2匹目を華麗な九頭竜返しで抜く三嶋選手
 下流ブロックは灯篭流し用の分流の向こう側がブッシュで見づらくなっていて詳細は分からなかったが、塩野選手は2匹を掛け込4匹で中盤戦に掛ける。塩野選手は下流ブロックが思ったより深く、攻め難かったと語っていた。また、手前の分流が思いのほか水深、押しがあり、ブロック移動のために戻る際、かなり遠回りをしてしまった。上流ブロックへ走って移動したが、到着した時には時間と体力をロスしてしまっていた。

〈中盤戦〉
 その下流ブロックに移動した三嶋選手は下流限まで釣り下がり3匹掛けたが、勝負は最後のブロックと考えたのか、残り15分ほどでブロック上限近くまで移動してきた。追加は出来なかったが、込10匹として最終上流ブロックへスムーズに移動する。

決勝でも気負いのない釣り姿で挑む松田選手は浅場から丁寧に探っていった。

選手を追う報道           

松田選手の戦いぶりは見ていて安心感があったが。

松田選手はあまり立ち込まず手前を丁寧に探った。  

中盤戦に入り中間ブロックで調子を上げてきた松田選手。思い通りの戦いだった。

三嶋選手は中盤戦の下流ブロックでは早めに上限近くまで戻って
探っていた。後半戦に勝負を賭ける。

中盤戦終了間際に分流を攻める三嶋選手。この後掛かったが外道だった。
 上流から中間ブロックへと移動した松田選手は開始7分に5匹目を掛けるとパターンを掴み同9分、23分、24分と掛けこの時点で三嶋選手に追いつく。そして34分に9匹目を掛け込11匹とし三嶋選手を逆転、最終ブロックを残してトップに立った。

上流ブロックの塩野選手も4匹を掛け猛追する。トップ松田選手とはわずか3匹差まで詰め寄った。

いよいよ2013年の勝者を決するまで最後の40分だ。3選手とも決勝がどのような展開になっているか把握できていない。自分のすべてを出し切って目の前の九頭竜川に挑むしかない。

後半戦にすべてを託した塩野選手だったが、名手2人が探った後でさらに釣果を出すには何かしらの工夫が必要だったか。

濁りが残る中、目で見える変化の「岩」はどうしても狙いたく
なる。しかしこの高みの決戦ではその先を狙う必要がある。 

三嶋選手はこの位置でも掛けた。この位置ならコロガシの影響は少なかっただろう。柔軟なポイント選択は見事だった。
〈後半戦〉
 三嶋選手は上流ブロックで3分で9匹目を掛けたが後が続かない。沖へ出るのかとも思えたが向きを変え狙ったのは分流と本流の境目付近だった。確実に石もあり、コロガシの影響もなく、狙い目と考えたのか。この辺りの臨機応変さが今大会では最後まで冴えた。開始13分に10匹目、終了間際の46分に11匹目を掛け込13匹として終了した。

 塩野選手は今までは見えない川底を丁寧に探りながらの釣りで結果を出してきていたが、この決勝で上流ブロックの比較的浅くポイントが絞りやすい場所で4匹を掛け、最後の中間ブロックでも流れの中に唯一顔を出している岩周辺の変化に活路を見出そうとしていた。しかし逆にその見える判断材料に苦しんでいたようだ。三嶋、松田選手がともに5匹ずつ掛けた場所でさらに掛けるにはもうひと工夫が必要だったのかもしれない。また変幻自在に釣る三嶋選手の存在も気になり、結果3匹を追加するにとどまった。

戦い終えた三嶋選手はいつも笑顔だ。自分のスタイルがゆるがない証拠だろう。

厳しい戦いを終えて、やっと笑顔を見せた塩野選手。この経験は
大きな飛躍のきっかけとなるかもしれない。         

放心状態に見えた松田選手。最後の最後で釣果が得られなかったことが信じられないからだった。
 さて見えなかった松田選手はどうだっただろうか。3匹以上掛けていれば6年ぶりの優勝だ。今までの戦いぶりを見ると3匹は松田選手にとっては安全圏かと思えた。
 いよいよ検量所に選手が集う。やっと33歳らしい笑顔が見えた塩野選手は十分やりきった、と言う表情だ。三嶋選手も勝敗の行方が分からないことから険しい表情も見せたが、こちらも非常に充実し満足げだ。対して松田選手だけは放心した表情だ。全てを出し切っての放心なのか。

  選手、ギャラリーが見守る中、注目の検量が始まった。まずは松田選手が引き船を開ける。込11匹で止まった。なんと下流ブロックでは釣果を増やせなかったのだ。ここにきて松田選手に何があったのか。

検量を見守る塩野選手の表情はすがすがしさを感じた。この時点では満足していたのかもしれないが、悔しさは後からやってくる。次はこれ以上を狙ってくるはずだ。

検量を見守る三嶋選手。手ごたえはあるはずだが、カウントコール
が終わるまでは気が抜けない。                

コールが終わり優勝の実感が全身を駆け巡る。なんとも充実した顔を見せる三嶋選手だった。
 次に塩野選手、込9匹、最後の三嶋選手の検量コールが九頭竜川に響く。コールが「12匹」となった瞬間、三嶋選手が両こぶしをギュッと握り、勝利を確信した。周りからは祝福の声が上がる。予選リーグでの大逆転に続き、決勝戦もまた逆転で念願のジャパンカップを手に入れた瞬間だった。
 顔からはやっと緊張が解け勝利をかみしめる充実の顔に変わった。シマノインストラクターとしてジャパンカップ優勝のタイトルは一般参加選手とはまた違った大きな意味を持つだろう。師を同じくする横山選手の祝福でやっと屈託のない笑顔を見せた三嶋選手、第29代ジャパンカップホルダーがここに決定した。

 予選リーグ上位3名の釣りは決勝でも同じだった。迷いのない堂々とした釣り姿が印象的だった松田選手が序盤からリードし、1匹差で後半戦に突入した時はこのまま勝つだろうなと感じた。本人も最後の下流ブロックへ移動し、好ポイントが多く点在する自分のエリアを見た時には、これは掛かる、と確信を得ていた。予選リーグ6試合、決勝2試合を手探りで戦いトップに立っている。いまだ濁りが残る九頭竜川でも

それぞれの思いを胸に表彰台に立つ3人の名手たち。ほんとうにおめでとう!
松田選手の目には掛かる場所が見えてきたのだろう。ついさっきまでは「ここで掛かるのか?」と考えながら戦っていたが、最後の最後で「ここなら掛かる」と意識が変化した。これがほんの僅かな隙を作ったのか。今大会初めての釣果無しとなったのだ。千慮一失とはこのことだ。終了のホーンとともに川から上がってくる松田選手の放心した表情は、他の選手がどうだったのか気にしている様子は微塵も感じなかった。ただ最後のブロックで釣果が無かったことが自ら信じられない、といった茫然自失の表情だったのだ。

塩野選手はここまで大崩れすることなく戦ってきた。名手たちがたった1試合、わずか1匹を逃して脱落する中、周りの状況を注意深く見ながら試合を作り残ってきた。それは決勝戦でも同じだった。他選手の動きを一番気にしていた。結果、決勝戦でも各ブロックで釣果を得ていた。しかし決勝戦はリーグ戦とは違う。トーナメント方式なのだ。自分の釣りで他の選手を打ち負かさなければいけない。塩野選手は十分その

最後は皆が笑顔で勝者を祝福する。2,500余名のなかで頂点に立った者だけが味わうことができる至福の瞬間だ。
可能性を持って決勝まで上り詰めたが、それに気が付かなかった。予選リーグをうまく戦い抜き、その戦い方は間違っていなかった。決勝でそれをリセットして挑むのは若き塩野選手にとっては至難の業だったのだろう。これが経験というものだ。大舞台で塩野選手が自分のおとりだけに集中して戦うようになった時は本当に強いトーナメンターとなっているだろう。

 対する三嶋選手は予選リーグ同様自分の釣りを崩さなかった。川の状態、コロガシによる場荒れや他選手の動き、移動も含めた試合運びも考え、尚且つ変幻自在におとりの位置を変えながら釣果を重ねていく。増水の引き水で時間とともに変化する九頭竜川、下見を行っていないエリアでの戦い、その場、その時の状況を五感で感じとって最適な攻め方を組み立てていく。今回の九頭竜川はそれを求めていた。最後まで自分のスタイルを貫いた三嶋選手がその求めに一番応えることができたのだ。